リアルに危険極まりない「ドリルミュージック」とは?

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最新音楽といえば何になるかって話になると、新しいサブジャンルを作り続けているヒップホップが世界的には常に新鮮な次世代の音楽を作り続けています。

音楽の歴史上でも70年代に生まれたジャンルであり、現代で最も新しい音楽といえるものがトレンドの母となり続けているのは当然のことかもしれません。

ブルースが歴史をつむいてファンクだのソウルだの様変わりしていき、ロックンロールが派生してハードロックだパンクだのニューウェーブだのメタルだの生み出していったように、ヒップホップもルーツはオールドスクールにあれど新たなサブジャンルを派生させまくって現在に至っています。

現在の音楽シーンで旬の母体となっているヒップホップ。そのヒップホップで2010年代から流行し始めたジャンルであるドリルミュージックは、現代の音楽シーンにおいて目が離せない存在でしょう。

名前からしてなんとなく不穏なこのドリルというジャンルを、今回は紐解いていきたいと思います。

ドリルミュージックとは?

2011年頃にシカゴで流行し出したドリルミュージックは、脈々と受け継がれてきたヒップホップのサブジャンルの中で、トラップというジャンルから派生して生まれました。

このトラップとドリルですが、どちらも不穏な音楽といえます。重いビートに暴力的な歌詞、ダークで危うい雰囲気に満ちたこのジャンルは、それもそのはずドラッグカルチャーやギャングと密接な関係にあるからヤバさ全開のアングラ全開、逮捕も喧嘩も上等な治安の悪化に影響されまくりの世界観に満ち満ちています。

ちなみにトラップがドラッグビジネスの汚くリアルな側面についての歌詞が多く、ドリルはギャングの抗争や獣社会の理不尽な暴力をテーマにすることが目立ちます。不穏すぎる!!!!

さらにニューヨークではエリック・アダムス市長が直々にドリルミュージックをソーシャルメディアで規制するように呼びかけています。どんだけ悪影響だと思われてるんだよ。

トラップミュージックとは?

ドリルの元になったトラップミュージックは、重低音を強調した重いビート、連続したハイハット、中毒性の高い電子音が特徴的なヒップホップジャンルの一つです。

トラップという言葉ですが、この言葉自体もかなり危険なスラングとなっており、1980年代から199年代のアトランタで「ドラッグを売っている家」を指す言葉です。

もうヤバいというのがピンとくる感じですね。いいですね!

トラップが歌詞で薬物について多く語っているのも当然といえるのはこのためでしょう。

こんなとんでもないとこから発生したアトランタのトラップミュージックから強い影響を受けて誕生したのがシカゴで生まれたドリルミュージックなので、音楽的な共通点もあれば文化的なヤバさも受け継いでいるという良い感じで悪い感じの音楽と相成っております。

ドリルミュージックとギャング

シカゴの治安の悪さが生み出した独自開発なジャンルのドリルは、治安の悪いところで治安の悪いお歌を歌っているので、歌っている人も当然のように治安の悪い人です。つまりギャングがそのまんまラッパーとしてドリルやってますというのがわりと当たり前です。

最近でもラッパーが逮捕されまくったと思ったら軒並みギャングで、そのラッパーがほぼ全員ドリルのミュージシャンだったというとんでもない出来事もあるくらいです。

しかも歌詞で犯行を自白しまくってたゆえにYoutubeにあげてた音楽が全消去されるという笑えない笑える話もあるくらいで、全部がギャグじゃないのが冗談じゃないって話ですね。

あと普通に笑えないのが逮捕ではなく当たり前のようにドリルのラッパーは殺害されまくってます。今後のドリルミュージック界で期待されてるような新人も平気で銃殺されるのが当たり前なので、いかにドリル界隈が穏やかじゃないかってのが伝わってくるエピソードです。

シカゴのギャング文化が起源になっていて、暴力的な歌詞だの好戦的なドラムビートだの32分の高速で鳴るハイハットだの重いビートだの、音楽的特徴そのものが「うわーあぶなそー」と直感できるようなサウンドなので仕方ないというかなんというか。

ちなみにシカゴでは「ドリルをする」ということは、犯罪に手を染めること意味します。

さらにはブルックリン地区の検事長エリック・ゴンザレス氏によると「近年の発砲事件はだいたいドリルと直接関係がある」と言ってます。どんだけヤバいんでしょうかって話ですね!

ついでに言っておくとドリルの一つブルックリンドリルをアンダーグラウンドからメインストリームに昇華したきっかけでもあるポップ・スモークもしっかり銃で殺されています。もう嫌になりますね!

ドリルミュージックの魅力と潮流

散々嫌な話ばっかりしてきていますが、近年のミュージックシーンにおいて主流ともいえるドリル。そんだけ若者にもアホほど悪影響を与えまくり世の中で流行りまくっている音楽ゆえに、それだけの魅力があるというのも事実。

ではドリルミュージックの魅力とは一体なにか。

ドリルはシカゴで産声を挙げてから、地区や国をまたいで変化していった流れがあります。

そして各ドリルの潮流はカギとなるアーティストが精力的に活動することで独自に形成された歴史もあるのです。

シカゴドリル

ではドリルはどういった発展を遂げていったのか。まずドリルが生まれたといえるシカゴドリルから触れていきましょう。

シカゴドリルを成立させたアーティストとして名前を挙げられるのが、チーフ・キーフ、リル・ダーク、リル・リーズなどのラッパー。

チーフ・キーフは1995年生まれシカゴ出身のラッパーで、2011年頃からミックステープを出しながら知名度を獲得していき、2012年にはカニエ・ウェストによって「I Don’t Like」という楽曲がリミックスされてヒットしました。

(ミックステープとは比較的自由なアルバムと捉えてもらえば)

いろんな意味でドリルラッパーらしく、殺し屋から銃撃を受けるなど映画の世界の暴力がそのまんま降りかかる事件の被害者になるなどシーンをこんな風にも代表するなんてさすがですね!

(ちなみに殺害を依頼したのは敵対関係にあったラッパーだという話もありますから物騒極まりないジャンルですね)

リル・ダークは1992年生まれのシカゴ出身のラッパー。17歳で父親になって高校を中退してから音楽のキャリアを真剣に積んでいったという訳ありなボーイです。ちなみに現在は7人の子供がいると子沢山。

2013年にはミックステープ「Signed to the Streets」がローリング・ストーン誌で年間ベスト・ミックステープの第8位にランクインするなど存在感を露わにしていき、頭角を表していきました。

リル・ダーク自身は銃器所持やら何やら銃関係でいろいろと逮捕歴があります。逮捕も服役も当たり前みたいなのがこのジャンルの特徴なんでしょうか。

シカゴドリルが単純に暴力的な楽曲だというわけではなく、そもそもドリルラッパー自体が暴力と密接な関係にあるというのがドリルカルチャーの特徴を作り出しているというのが伝わってきます。

ギャングに憧れてギャングな音楽をやるのではなく、ギャングが音楽やったらギャングな音楽になったのだから当たり前に過激な楽曲に仕上がりますわな。

UKドリル

ドリルミュージックはシカゴの文化に根付きまくってるにもかかわらず、そのハードな楽曲は海を超えてロンドンでも流行しました。2012年頃にはUKドリルとして南ロンドンのブリクストンを中心に、やっぱり国外でもしっかりとギャングのカルチャーをがっちり合わさって独自の音楽性を発展させていきます。

UKドリルの特徴は、貧困に苦しむ若者世代の声が反映されており、不穏なムードやダークさを感情として発露する楽曲、憂鬱さなどがサウンドに反映されていきました。トラックの特徴としてはシカゴドリルよりもテンポが早かったり太いベースラインなどが挙げられます。

こんな感じに暗い感情やら思いを代弁している音楽なので、凶悪犯罪の引き金になったりやら事件と関係していると言われてやっぱりイギリスでもヤバい音楽扱いされているのがさすがといったところ。メディアでは叩かれまくり、さらには警察がUKドリルを検閲する事態にまで発展しました。どんだけ危険視されてるんだよって話ですが、音楽の影響力の計り知れなさを伺うこともできますね。

2013年にはロンドンのアーティストたちが発信していったUKドリルは数年で巨大なカルチャーとして成熟していったのです。

67やSkengdo & AMなどが人気を博してジャンルに貢献しました。

67とはサウスロンドンのグループ名です。

彼らが表れるまではゴリッゴリの現役ギャングがラッパーやってたり、犯罪が日常化している地区の住民にとってのヤバいジャンルでしたが、音楽性を発展させていった貢献者といえるのが67の偉大なところ。

Skengdo x AMは2017年にミックステープの「2Bunny」をリリースしてUKのiTunesヒップホップアルバムでナンバーワンになりその知名度と勢いを知らしめました。

ちなみにSkengdo x AMはドリルの生みの親とも言えるシカゴドリルの第一人者チーフ・キーフともコラボしています。UKドリルを広めたという意味ではかなりの貢献度がありますね。

ブルックリンドリル

2010年半ばにはアメリカでもドリルが新たな発展を遂げます。シカゴではなくブルックリンで産声を上げたブルックリンドリルです。

シカゴドリルからの色濃く影響を受けたブルックリンドリルは、イギリスで発展したUKドリルのビートやスタイルを持ち込んで独自に進化を遂げました。

なんでまた国をまたいでUKのドリルがミックスされたのかというと、タイプビートカルチャーという近年のグローバルなインターネット事情が関わってきます。

インターネットにはビートが簡単に売りに出されており、プロデューサーの作ったビートをラッパーがネット越しに買い取って「UKドリルみたいなビートが欲しい」と思ったら検索すれば速攻で手に入る時代となりました。

そのためシカゴドリルの特徴だけでなく、UKで頭角を表していた新たなドリルも取り入れてブルックリンドリルは発展したのです。

じゃあ健康的に音楽としてドリルミュージックはやっと確立されたのかというと、そんなことはぜんぜんありません!やっぱりドリルはドリルですね!

というわけでブルックリンドリルもばっちりギャングカルチャーと結びついて、リアルのギャングがブルックリンドリルのバッキバキのラッパーやってるということはぜんっぜん珍しくありませんでした。

たとえばブルックリンドリルのラッパーはWooとChooという2つの対立グループの所属であることが珍しくなく、アメリカ最大のギャングの1つであるクリップスのメンバーがWooには多く混じっていたりと、思いっきりギャングの文化がそのまんま入ってるのがさすがといったところ。

ブルックリンでも貧困やらギャングの抗争といった問題は深刻であり、ドリルがブルックリンで発展するのは必然だったといえるのでしょう。

UKでの独自進化を遂げた文化を現代のテクノロジーを使って新たなジャンルとして進化させていったとはいえ、源流には貧困だったりギャングの争いが流れているのがドリルの特徴といえそうです。

このブルックリンドリルの代表的なラッパーとして世界的に注目を浴びまくっていたポップ・スモークですが、彼がLAの自宅で銃殺されたのもギャング同士の抗争に巻き込まれたからではないかといわれています。

(ポップ・スモークはさっき言った対立ギャングのWoo側のグループに所属していたようです)

ちなみにポップ・スモークはブルックリンドリルをメインストリームの音楽として世界中でヒットさせたドリル界を代表するアーティストであり、2018年から音楽キャリアをスタートして2019年の4月には楽曲「Welcome to the Party」がヒットしています。

ちなみにこの楽曲も先に述べたタイプビートカルチャーによってYoutubeで見つけたビートを耳にしてビートを買ってラップを乗せて作りました。めっちゃ簡単にヒットソングを生み出す文化には驚愕する一方で、クリエイターとしての敷居が下がり、だれもが創造性を発揮できるのはそれはそれで時代なのでしょう。

ブルックリンドリルを世界的な音楽にしたポップ・スモークは、2020年に銃殺されています。1999年生まれなので、わずか20歳で死去しているというのも驚きですが、死因が自宅に侵入してきた強盗に胴体をぶっ放されて死ぬというのもカルチャーを地で表しているようでなんともまあ。

ちなみに殺害に関与した5人中4人が10代で、最年長でも21歳でした。最年少は15歳です。で、最年少15歳の彼がポップ・スモークを射殺してます。

たまらねえぜ!!!!!

ドリルカルチャーの今後

ポップ・スモークの死後、メインストリーム化したブルックリンドリルはさまざまなミュージシャンが作品を作っており、日本でもドリルスタイルのラッパーやらビートメイカーも増えてきています。

2022年現在はUKで独自に誕生したLo-fiドリルという、ただ危険な雰囲気だけではなく悲しみを帯びたドリルミュージックも盛り上がりを見せていますし、メインストリームを席巻するドリルカルチャーが今後どのように広がりを見せていくのか目が離せません。