孤高のギタリスト「ジェフ・ベック」とは?

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ギタリストの世界だろうがホストの世界だろうが、唯一無二な存在は「俺か、俺以外か」みたいな形容されるほどビッグな人間というのがちらほら世に誕生するのが運命でしょうか。

自分で言ってりゃ一歩間違えなくてもスーパー痛いビッグマウスになりがちなこと発言を実現できるのがスターであり他言に言われりゃあその時点でスーパースター。

英国ロック界において3代ロック・ギタリストと称されるその一人、ジェフ・ベック。常識に囚われることなく、自由奔放なサウンドは孤高のギタリストと形容され、自由さとは個性の証明象徴となり、ゆえに天上天下において独尊に値する生を謳歌しているといったところ。

気まぐれやりたいことやってなんぼ、自分の音楽を貫いて上等なジェフ・ベックの音楽性は、それゆえに時期ごとに様変わりしているのも特徴。

偉大なギターヒーローについて今回は触れていきましょう!

ジェフ・ベックとは?

1944年はロンドン南部のウォリントンで生まれたジェフ・ベック。ウォリントンはボート競技が約200年行われているように、マージー川という水辺に沿った豊かな街。中流階級の家庭に生まれたジェフは心身ともに健やかな少年時代を送ることになります。よかったですね親が離婚してるだの虐待してるだのミュージシャンにありがちな闇の英才教育を施されなくて。

ネガティブな才能育成をされるのではなく、私立小学校に入学した頃からピアノのレッスンを受けています。しかも母親から。ここでも環境の良さが伺えて素敵ですね。音楽の素養を育むことができる環境下にあったのも人生ルーレット的に良かったことでしょう。実際、母親はピアノを弾いていたため家庭に音楽があるのが当たり前だったのです。

12歳からはさらに感性を磨くがごとく、アート・スクールに通い始めます。両親が芸術方面に明るかったのでしょうか。

それから音楽にも興味を持ち始めたジェフは、ロックン・ロールやロカビリーなどポマードで髪型をキメるようなイカした音楽に興味を抱きます。

そして遂にギターを手に入れます。友人からもらったギターは、なんと弦が3本しか張られていませんでした。ここから彼の気ままな予想不可能なギタープレイが生まれていくってこと、というわけではなくてこれではジェフは満足できません。ベースでも基本4弦なのにそれより少ない弦をどうやて扱っていたのでしょうか。

(ちなみに3本弦のギターというのは実在しています。練習用、というか子供用の演奏楽器としてのようですが)

なのでギターの完成形としてではないギターに飽き足らず、ついにジェフはベニヤ版を加工してギターを作ってしまいました。どれだけギターに対する欲求が尽きないのでしょうかね!

このギターの虜になってどうにかして弾きたくてたまらない息子の姿を見かねた母親が、日本円で4000円ちょいくらいのギターをやっと買ってもらえました。

じつはピアニストになりたかった?

少年期からバッチリギターに魅せられていたのが後の偉大なギタリストの姿というわけですね。ちなみに彼はピアニストになるということも一時は考えていました。

ですが、ジャズ・ピアニストのアート・テイタムというジャズ・ピアニストの演奏に驚愕して心がへし折れたのだとか。

というのもアート・テイタムは先天的な視覚障害があり、片目が全く見えずもう片方の目もほとんど視力がなかったのですが、それでもエグいレベルの演奏力を誇っていたという天才感が満載の人物です。

幼少期とはいえそんなもんに直目すればショック受けても当然といえば当然ですが、ギターの神様みたいな人が音楽体験で挫折を味わっているというのも驚く話です。

まあピアノに関しては母親はピアノを弾いていたから、母がピアニストになることを勧めたというのも考えられますが、とにかくピアノではなくギターに気持ちが変わっていったジェフ。

彼がギターに興味を持ったのはエレキギターの速弾きに感動したからです。

そして決定的となったのはなんと映画。1956年公開の「女はそれを我慢できない」(The Girl Can’t Help It)というコメディ映画です。

なんでコメディ映画からギターの神が舞い降りたんだって話ですが、じつはこの映画はロックンロールを題材にした作品であり、クリフ・ギャラップというギタリストに感銘を受けたのがジェフの将来と人生を決定づけることとなります。

ロックンロール創世記にジャンルの基礎を形作ったともいえる伝説的なギタリストであり、ジェフ・ベックはもちろん英国3大ギタリスト全員に影響を与えています。つまりジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジです。

音楽活動の期間は長くなく、バンド活動後は教育関係の仕事に就くというぜんぜんロックンロールじゃない就職してる大先輩のクリフ・ギャラップですが、3大ギタリスト全員に影響を与えてるんですからその存在自体がロック過ぎる。

ジミー・ペイジとの出会い

16歳になったジェフはロンドン芸術大学のカレッジの1つであるウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートに入学します。アート方面の学校にずっと通っているのが彼のクリエイティビティを高めていったのでしょうね。

この頃にはジェフは初めてのバンドを組んで地元のクラブで活動を始めます。バンドマンとしてのデビューを飾りましたが、ここで運命的な出会いを果たすことに。

なんとジェフの通う芸術学校には、同じく3大ギタリストのジミー・ペイジも通っていたのです。どんだけ凄い学校なんだよ。

しかしそれぞれやはりアートの感性が豊かであったことが証明されているのかもしれません。

そして2人は仲良くなります。友人になるのが当然といえば当然かもしれません

それは3大ギタリスト同士だからではなく、そもそもジミー・ペイジを知ったのは姉からの紹介だったからですが、その紹介のされ方が「アンタみたいなオタクがいる」だったのです。姉ちゃん…。

オタク同士でギターのテクニックの話やらおたがいが好きなシカゴのR&Bやブルースについて語り合い、音楽好き同士で盛り上がりまくる2人。音楽に対して並々ならぬ思いが2人とも学生時代からあったのが、以降のキャリアに結びついているのは言うまでもないですね。

ヤードバーズへの参加

ジェフはアートスクールにジミー・ペイジと出会いにいったようなもんなのかという勢いで学校を退学し、在学中に結成したバンドも解散。

そして新しくバンドを結成しつつ、セッションのギタリストとして様々なバンドとの共演を果たしていきます。

多忙なギタリストの活動のなかで、1965年にジミー・ペイジからあるバンドに参加することになります。

ここで驚愕というか運命というか、だからこそトップの3人なのかって話ですが、ジミー・ペイジに紹介されたのはヤードバーズというバンドです。

このバンドはギターが抜けたことでジェフが参加することになったのですが、なんと抜けたギターってのが3大ギタリストのあと1人のエリック・クラプトンです。とんでもない世界過ぎ!!!

で、このヤードバーズというバンド自体がそもそも恐ろし過ぎるバンドなのですが、エリック・クラプトンがギターやってた時点でとんでもないのにくわえて、入れ替わりで入ったのがジェフ・ベック。

さらにジェフがギターとして加入した翌年には、脱退したベーシストの代わりにベースとしてジミー・ペイジが加入します。頭おかしくなりそうですね。

つまりヤードバードは英国3大ギタリストを3人とも輩出したバンドであり、さらにいえばなぜか3大ギタリストのはずなのにベースとして加入したジミー・ペイジが、このヤードバードを母体にしてレッド・ツェッペリンを作り出します。

(レッド・ツェッペリンはハードロックの発展に多大な影響を与えたバンドであり、世界中で2億枚から3億枚のトータルセールスを誇るイギリスを代表、どこか世界を代表するバンドです)

そんなぶっコワれたバンドに参加したジェフ・ベックはヤードバーズで活躍し、「Shapes Of Things」など名曲で新しいギター・ソロを生み出してトップギタリストの階段を駆け登っていきます。

ヤードバード脱退後

スーパーバンドで精力的に活躍したのち、バンド内で徐々に人間関係がよろしくなくなっていき、アメリカ公演時にヤードバードを脱退したジェフ。(アメリカ公演の持ち時間が15分と短時間だったことにくわえ、ヤードバードのメンバーのことをバカげた連中と罵っていたようなので、なにかしら不満が募っていったのでしょう)

バンドを脱退して以降は自身がリーダーを務めるバンド「The Jeff Beck Group」を結成します。

この頃には第一期と第二期と活動を大別することができ、第1期はオーソドックスなブルースロックを基調としています。

そして第2期はソウルやファンクの要素を取り入れながら、モダン・ジャズの巨匠マイルス・デイヴィスのアルバムの影響からフュージョンのエッセンスも起用して新しい音楽を生み出していきます。

そうして常に新しい可能性をギターという楽器で形作っていき、新鮮な視点をもって挑戦を繰り返していきます。

以降はエレクトロニカやテクノなども取り入れながら新たな音作りに挑み続け、現在でも精力的に活動しており2020年にはジョニー・デップとコラボしてジョン・レノンのカバー曲を公開したりと、70歳超えても現役バリッバリで活躍し続けています。

衰えや限界のないスター

2022年現在77歳になったスーパーギタリスト。

常に躍動し続けてきたジェフの家には、あちこちにギターを置いてあり常に弾けるようにしています。

ギターを絶え間ない挑戦と公言し、手に取るたびに覚えたてであるような感覚を忘れない。そのチャレンジ精神とストイックさ、そして若い心が彼を常に新鮮に保ち動かし続けるのでしょう。

彼は輝かしいキャリアのなかでも、超人的な指弾きの腕は圧巻であり、高速で指を動かすだけではなく、ボーカルに合わせて非常に表現豊かに音を奏でるギタープレイはジェフ・ベックならでは。

元々の才能ももちろんあるでしょうが、彼がギターに対してストイックに向き合い、常に努力することを怠らなかったこともスターとなった理由であることは想像に難くありません。

現に彼は自身を18歳でいることを試し続けているとインタビューでも語っています。

18歳の頃から「20歳以上にはなりたくない」と常に頭で思っていた彼は、それをくだらないことだけれど楽しくてやめられないと笑いながら言っています。

若さとは思考や行動の賜物であり、彼が常にフレッシュなのは自身で体現しているからにほかならないのでしょう。

彼は言います。「俺はいまでもくだらないコメディが好きだ」と。

「今はシリアスな人が多いからな」。

孤高のギタリスト

常に同じことを繰り返さず、数多のギターテクの引き出しを有し、現在も世界中で愛されるトップギタリスト。

しかし天才性はその人とは異なる性質ゆえなのか、だからこそ彼はいまでもトップで活躍し続けるのか。

彼は素晴らしいギタリストであると同時に、人としてはお世辞にも関わりやすい人ではありません。

数々のバンドでメンバーを取っ替え引っ替えで、というかメンバーとうまくいかないことが当たり前で、気に食わなかったらすぐにクビにするような無慈悲っぷりがあったりしますが、その自由勝手で気まぐれで気難しい性格があるのも、孤高な存在としての一因なのでしょう。

ヤードバーズを脱退したのも、メンバー同士でのトラブルもあったのでしょうが、彼の性格が原因となっている節もあるのではないでしょうか。というかあるのでしょう。

(なんせヤードバーズでジミー・ペイジが目立ったギタープレイをしたものなら用心棒雇って殴らせたとかなんとか。ギターにかける思いが熱いですね、の一言で片付けにくいエピソードですね!)

気に入らないプロジェクトがあったら完成間際でも辞めるわ、同じことを繰り返さないのは一度弾いたギターフレーズは飽きるわだの、気まぐれ自分勝手独裁者だの罵られる要因もフルにある彼。

その社会不適合っぷりがあるからこそ凡人には生み出せない才能が開花してるということでしょうが、まあめんどくさい部分は強烈にある人なのでしょうおそらく。

それでも音楽に対する思いは人一倍で、あらゆるジャンルに精通してストイックに探求し続けるからこそ、孤高なミュージシャンとして今も世界を股にかけるジェフ・ベックは、これからどんなギターサウンドを生み出すのか世界が期待しています。