鍵盤楽器と聞くと、真っ先に思い浮かぶのはピアノではないでしょうか。
弦をハンマーで叩くことで美しい音色を発するピアノ。音楽に触れている方であれば様々な形で耳にする機会も多いかと思います。
ロックにも使われたかと思いきやジャズでも要、果てはオーケストラやクラシックでもその歴史は深く、また幅も広く万能な楽器。
一楽器一つで曲を奏でられるのは、ギターやピアノなど限られた楽器になります。ベースやドラムはバンドにこそリズム隊といわれるようにリズムをコントロールするためであったり、バンドの基礎を作り上げる上で必要不活です。
しかし、ギターやピアノはそれ一本で曲を成立させることも可能です。ベースやドラム単体ではそれは成し遂げられず、さらにピアノでいえば音域が非常に広いため、万能性は計り知れません。なんといってもオーケストラの全音域も広いのですから、なんでもできるといっても過言ではないです。
(ちなみにオーケストラの例でいえば、最も低い音であるコントラバスも出せます。高音に関しては一番高い音を担当するピッコロより高い音が出せるので、まさにピアノ一つでどうにでもなるといえるのはこういった理由から)
「楽器の王様」などと呼称されることもある万能有能なピアノ。
今回は楽器について焦点を当てて、このピアノという楽器の魅力や歴史を紐解いていこうと思います!
ピアノとは?
ではまず、ピアノとは何かを簡単にまとめたいと思います。
楽器として知っている方はもちろんほとんどでしょうが、ピアノについて説明を求められて即答できる方も少ないのでは?
簡単に幅広い音が出せる
ピアノとは一目見ただけで瞭然な鍵盤が横一列にズラリと並んだ楽器です。
整然と並んだ88鍵は音の配列や高低がわかりやすいのが特徴で、これは演奏においてのハードルの低さにもつながります。
たとえばギターであればピアノのように順番にドレミを奏でることはできません。
指の押さえる箇所もバラバラですし、第一弦を正しく押さえなければ音すら出ません。
その点、ピアノは左から右に順番にドレミファソラシドと並んでいますし、音もただ押すだけでなります。
この鍵盤を押すだけでピアノから音が跳ね返るということは、楽器に触れる初歩のハードルをグッと下げてくれます。
ピアノが楽器の王様と呼ばれる所以は、楽器一つでオーケストラの楽器の音域をすべてカバーする点にもありますが、にもかかわらず音を出すことが簡単かつ明瞭な点にもあるでしょう。
(ギターでもある程度の練習や把握が必要なのに、弦楽器でもヴァイオリンになれば音を出すだけでさらにハードルが上がります)
音色を簡単に変えられる
また、鍵盤の押し方一つで音の強弱を付けられる点も魅力。
ピアノにはハンマー部品があり、これで弦を打って音を出す仕組みになっています。ハンマーは鍵盤と連動しているため、鍵盤を叩いた強さはそのままハンマーが弦を叩く強さに直結します。
そのため、鍵盤を叩く強さだけで音の強弱を付けられるシンプルかつ簡単な仕様となっているのです。
また、ピアノの足元にあるペダルを踏むことで、音色を簡単に変えられるのも特徴。
ピアノにもよりますが、ペダルには種類があります。
ダンパーペダル
ダンパーペダルという右側のペダルを踏むと音が伸びます。これはダンパーといってピアノの弦の響きを止めている部分があるのですが、ラウドペダルを踏むとこの部分から弦が離れることで音の伸びが生まれます。
ソフトペダル
左側のソフトペダルを踏むと、響きを弱めることができます。
ピアノの種類によっても仕組みが異なりますが、このペダルを踏むとピアノ内部でけっこう大きな変化が起こります。
ピアノについている鍵盤が一気に右に少しずれるのです。正確には鍵盤のハンマーがずれるのですが、こうなるとどうなるのでしょうか?
ピアノは1つの音を低音以外は3つの弦で慣らしています。ちなみに低音は2本です。
そしてハンマーの位置をずらすことで、叩く弦の数を減らすことができます。3本の部分は2本、2本のところは1本と通常より叩く弦の数を減らし、音量を小さくできるのです。
(ちなみにこれはグランドピアノの構造で、ほかの種類のピアノだと構造が異なります)
ソステヌートペダル
グランドピアノには真ん中にもペダルがついていますが、ソステヌートペダルといって、ペダルを踏んだときに押している鍵盤の音だけを長く引き伸ばすことができます。
先ほど紹介した右側のペダル、ダンパーペダルは一気にすべての鍵盤に影響を与えることができる反面、特定の音だけを調整することはできません。
そのため、ソステヌートペダルは任意の音のみ変化を与えることができるので、より幅広い音色を演奏で生み出すことができます。
ただし上級者向けのペダルともいえるので、使用頻度はほかのペダルよりも少ないです。
これら幅広い鍵盤、簡単に奏でられる音、ペダルとタッチの強弱による表現力の幅によって多彩な音を生み出すことができます。
しかもほかの楽器に比べて簡単に音が出せるのは強み。
10本の指で同時にたくさんの音が出せる
鍵盤を押すだけで音が鳴るので、音を出す難易度が低いため、10本の指を使って複数の音を出すことも難しくありません。
これは楽器演奏の幅を生み出す上でかなりのアドバンテージといえます。1人で複数の音を出すことができるため、片手でメロディーを弾きながらもう片方の手で伴奏である和音を生み出すことも可能です。
メロディー、ハーモニー、リズムという音楽の3要素を1人で同時に生み出せるため、演奏の多様さはもちろんのこと、作曲にも用いられることが多いとまさに万能な楽器なのです。
ピアノひとつで一曲丸々を1人で重厚な音色で演奏することができるのは、これらの多様性を両手両足で生み出せるところに理由があったというわけです。
ピアノの歴史
現代の演奏においても重要であるピアノ。大作曲家たちもこの万能楽器を用いてさまざまな名曲を生み出してきました。
その名を挙げればキリがなく、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンなどなど、わざわざ名前を挙げるまでもなくピアノがどれだけ音楽誌において偉大なアーティストの手となり足となっていたか。
そんなピアノですが、パッといきなりこんな優れた楽器が生まれたわけがありません。ピアノ誕生には当然のごとく歴史があります。
ピアノの祖先は一本弦の楽器
ピアノには祖先と呼ばれる楽器がいくつかありますが、それら祖先といわれる楽器は一本弦の弦楽器から派生しました。
つまり、鍵盤楽器のピアノは弦楽器から生まれたということになります。とはいえ、ピアノと弦はまったく無関係ではありません。先ほどペダルの説明をした際に、ハンマーで弦を叩くという旨に触れましたが、弦を響かせて音を出す機能はピアノに備わっています。
ダルシマー
このように弦と音の関係を見ると、ダルシマーという楽器が音を出す仕組みに共通点があります。
ダルシマートは台形の共鳴体という箱の上に張られた数多くの弦を、ハンマーと呼ばれるばちで打って演奏します。ハンマーで弦を叩くというのはピアノと同じ構造になりますね。
また、音を出す構造だけでなく音色も類似することからピアノの先祖といわれています。
ダルシマーは遡ること11世紀に中近東からヨーロッパに伝えられた楽器です。ちなみにダルシマーはアジアで使用されるものとヨーロッパで使用されるものとでは大きさに違いが見られます。
アジアのものは比較的小型ですが、ヨーロッパのものは100kg近い巨大なものも見られるのです。というのもヨーロッパではオーケストラでも使用されるので、音域を広げるためにダルシマー自体を大きくする必要があったから。
ただ、ピアノと姿形は異なっているので、ここからピアノに見た目も近づいていきます。
見た目の類似ということでいえば、鍵盤楽器という類別が重要になりますね。鍵盤のついた楽器自体はピアノ以前からありました。代表的なのが、オルガンです。オルガンは音菅に空気を送り込むことで音を出していたため、ピアノとは音の出し方が異なりますが、鍵盤楽器というジャンル自体は古くからあったのです。
クラヴィコード
では、ピアノに近づいた楽器は何か。クラヴィコードという楽器が挙げられます。
クラヴィコードはダルシマーから時代が進んで14世紀に生まれた楽器で、鍵盤を押すと棒が弦を打って振動を起こして音を出す仕組みでした。これはかなりピアノに近づいた楽器と言えます。
タンジェントと呼ばれる金具で弦を叩く構造なので、鍵盤を叩く強さで音の強弱も出せました。
ただし、音域は4から5オクターブと、ピアノに比べて音域は狭かったです。ちなみにピアノは7オクターブと1/4あります。
余談ですが、このクラヴィコードはあのビートルズの楽曲でも使用されているのだとか。ポール・マッカートニーが「フォー・ノー・ワン」で演奏しています。
チェンバロ
クラヴィコードから約100年後の1500年ごろには、ほぼピアノのような楽器が誕生しました。
それがチェンバロです。チェンバロはプレクトラムと呼ばれる道具で弾いて音を出す鍵盤楽器です。プレクトラムというと馴染みがありませんが、ピックといえばピンとくる方も多いでしょう。
そうです。ギター弦を鳴らす際に持ちいるアレですね。ピックで弦を弾くというとピアノよりもギターを連想する構造ですが、見た目はグランド・ピアノのような翼形の楽器です。
イタリアからフランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパで広がり、ルネサンス音楽やバロック音楽で広く使用されました。この頃に世界的な作曲家であるバッハは、このチェンバロを使っていたのです。
この頃は鍵盤楽器といえばオルガンかチェンバロでした。
ピアノ
そして遂にピアノの登場です。
これまたイタリアで1709年にフィレンチェのバルトロメオ・クリストフォリという楽器制作家が発明しました。ちなみに貿易と金融業で富を成した名家メディチ家に仕えていたそうです。すごいですね。
ちなみに彼はハープシコードの制作者でした。ハープシコードとはチェンバロのことです。
チェンバロを作ったバルトロメオは、ピアノの発祥ともいえる「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」を発明しました。やたらと長い名称ですが、これはクラヴィコード風のチェンバロという意味があります。ピアノの祖先がクラヴィコードやチェンバロだというのが名前にも現れていますね。
ここから名前がピアノフォルテに着されて、さらに省略されてピアノになりました。やっぱり名前長いと思ってたんでしょうかね。
鍵盤の数の不思議
ちなみに現在のピアノは88鍵ですが、発明当時のクラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテは54鍵しかありませんでした。
音楽が発展するにしたがって、鍵盤の数は徐々に増えていったのです。表現力の幅を出すために、18世紀後半には61鍵、1800年頃に68、それから20年後には73、さらに10年後には78…と微妙にどんどん増えていきます。
そして1890年ごろに今の88鍵盤になりました。
ここまで増えてきた鍵盤ですが、なんで88鍵で鍵盤数が止まったのか不思議ではありませんか?
増やそうとすれば100以上も増やせそうなものです。
これには理由があります。というのも、それ以上鍵盤を増やしても人間が聞き取れないというのです。
現在はピアノは7オクターブと1/4の音域がありますが、人間が聞き取れるヘルツは20から20000ヘルツです。
さらに音程として聞き分けられるのは20から4000ヘルツなので、この範囲を超えた音域を出しても、低音はゴロゴロした音にしか聞こえず、高音は音程もないノイズとしてしか聞き取れません。
なので現在の88鍵で人間が聞き取れる音はカバーできているのです。
とはいえ、じつは88鍵以上の鍵盤を備えるピアノもあるにはありますが、それらの鍵が演奏で利用されることはほとんどありません。主な目的は、ほかの弦を弾いた時に響きをプラスするなど、純粋に弾くためではない意義があるのです。
メインは88鍵のピアノであり、このピアノはウイーンを中心に盛んに制作されました。モーツアルトがこのときに活躍していますね。
近代のピアノ
さらに19世紀には産業革命もありピアノは大きく改良され、現在の形にどんどん近づいてきます。
そしてピアノを演奏する巨匠としてベートーヴェンがこのピアノを華麗に弾きこなします。ほかにもシューベルトやメンデルスゾーンなど、時代を超えて愛される作曲家が音楽をピアノから生み出していきました。
そしてピアノはオーケストラの音域を楽器一つでこなせると冒頭で説明しましたが、19世紀後半にはショパンがほぼピアノの曲だけを書いたり、ピアノリサイタルが生まれるなどピアニストが生まれてきます。
オーケストラで大勢で演奏せずとも、ピアノ一つで観客を魅了することができたというわけです。
現代のピアノ
それからも現代に至るまでピアノは改良され進化し続けています。1900年には日本のヤマハが国産初のピアノを生み出していますし、1927年には河合が設立され、翌1928年には河合がグランドピアノ第1号を完成させています。
現在は電子技術を駆使して自動演奏のピアノや音を抑えたサイレントピアノの開発など、ピアノは自体を経た今も形を変えて人々の心のよりどころとして生活の中に溶け込んでいます。
ピアノは高級なものからこのように現代の技術を駆使して安価に購入できるものもあるので、日常を豊かにするピアノを生活の一部にするのもいいでしょう。
楽器は一生ものです。楽器と音楽のある生活は、人生をより豊かにしてくれますよ。