神聖かつ荘厳「オーケストラ」と「クラシック」のルーツとは?

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バイオリンの旋律、チェロの支え、主旋律を奏でる管楽器。

豊かな音色のフルート、ボリュームを与えるトランペット、華やぐ管楽器。

リズムを刻むティンパニー、唸るシンバル、編成を導く打楽器。

多種多様の楽器で構成されたコンサートの栄華を誇るオーケストラ。壮大さと荘厳さを表現すればこの最高峰の楽器隊に勝るものなどあるのでしょうか。

優劣甲乙なんてのはつける気は毛頭サラサラありませんがオーケストラはやはりその圧倒的なスケールは唯一無二です。アンプやらマイクといった電子による拡張を通さずに生音で栄光まで想起させるなんてのはやは凄みを感じざるを得ず、さまざまな楽器が集合したゆえに可能となる集合体の力は全身で受け止めれば感動感涙するのも当然といったところ。

オーケストラは多様な楽器で構成されていますが、個々の楽器だけでは表現の幅に限界があります。

それをクラリネットもファゴットもホルンもフルートもピアノもハープもトロンボーンもテュパも一緒くたとなってまるで一つの楽器のようにミックス配合調和させることで、時の作曲家たちは交響曲を生み出しました。

ベートーヴェンもモーツァルトもチャイコフスキーもストラヴィンスキーも、この世界最大といえる超大な楽器を操り、後世永劫残り続ける遺産を生み出したのです。

世界観と人生観を圧縮凝縮した豪華絢爛な楽曲。オーケストラを好んで普段から視聴している人は少ないかもしれませんが、どこかしらで必ずと言っていいほど耳にするこの人類の一つの極致はいったいどんな音楽なのでしょうか。

今回はオーケストラを紐解いていこうと思います。

18世紀のヨーロッパで生まれたオーケストラ

オーケストラという言葉は、ギリシャ語のオルケーストラが語源となっています。オルケーストラとは、舞台と観客席の間にある半円形のスペースのことです。ここで合唱隊が舞を踊ったりしていました。なので元々はオーケストラという言葉は。舞台の手前部分を指す言葉だったのです。ちなみに合唱隊はコロスと呼ばれ、コーラスの語源ともなっています。

なんで舞台の手前というかなり限定的な部分を指し示す言葉から、壮大な楽器集団のことを指すようになったのか。それは17世紀後半に生まれたオペラが関わってきます。

オペラは歌手が演技をしながら歌いますが、オペラには音楽も必要です。ではその音楽を演奏する人々はどこにいたかというと、ステージと客席の間にいました。つまり舞台の手前の部分です。はい、オーケストラにいた楽団は、オペラが広まるにつれて楽団の座る部分自体がオーケストラと呼ばれるようになったというわけですね。

(ちなみにオペラでオーケストラたちのいる場所自体は、現在ではオーケストラピットといいます。ピットは窪みの意味です)

オーケストラという語が定着するまでは、演奏家たちのことを「楽器たち」を意味する「ストロメンティ」や「楽団」を意味する「カペル」と呼ばれていました。現在でもドイツ語では指揮者のことをカペルマイスターといいますが、これは歴史の名残といえます。

オペラが広まるにつれて楽団の存在は大きくなっていきます。当初は小規模な合奏でしたが、17世紀後半からは楽団の人数が増えていきます。

楽器の追加を見ても、オーケストラの進化を見ることができます。現在の弦楽器と管楽器の形のオーケストラの原型はオペラの伴奏から始まりましたが、弦楽合奏を強化するためにオーボエやファゴットといった木管楽器がプラスされたのが初期オーケストラの形態。

それからオーボエは時にフルートやクラリネットに持ち替えられるようになります。さらに金管楽器のホルンや打楽器も加わっていき、オーケストラの形態はどんどん豪華になっていったのです。

ちなみにオーケストラとよく似た編成である吹奏楽ですが、オーケストラの違いはなんでしょうか?

それはコントラバス以外の弦楽器が吹奏楽にはないことです。たしかに吹奏楽は弦楽器のイメージはあまりないかもしれませんね。大勢の管楽器による演奏が吹奏楽のパッとイメージする姿ではないでしょうか。

オーケストラとクラシック

オーケストラの歴史はヨーロッパから始まります。そしてオーケストラにはクラシックの話も必要不可欠。

オーケストラはどんな音楽でも大団円のエンディングばりに演奏してくれますが、やはり楽団の演奏はクラシックを連想するでしょう。

クラシックとは聖歌にルーツがあります。グレゴリオ聖歌というローマ・カトリック教会の典礼のために生まれた聖歌であり、9世紀から10世紀にかけて西欧から中欧のフランク人の居住地域で発展しました。

旋律の特徴はいくつかの音楽技法が挙げられます。インキピットという冒頭句やカデンツという終始、メロディの中心になるリサイティング・トーンなどを使用し、ネウマ譜を用いられました。このネウマ譜は現代でも使われている五線譜に発展したものです。

歴史的には教会では男性や少年合唱によって歌われて、修道会では修道僧や修道女によって歌われてきました。

ちなみにこのグレゴリオ聖歌は、無伴奏で歌われていました。伴奏なしで歌うというのも神聖さがあって素敵ですね。

教会音楽からの発展

聖歌という教会音楽としてスタートを切ったクラシックですが、別にバーで酒を呑み交わすときに洒落た音楽を聴くために生まれたわけでは当然なく、神への祈りとして誕生したのが聖歌です。

それがどうして普段から親しまれる音楽になったのかというと、協会の影響力が弱まる時代が関係してきます。

ルネサンスという文化運動です。

14世紀にイタリアで始まった文化運動であり、古典古代の文化を復興しようとする西欧各国に広まったこの活動は、文学、建築、絵画、彫刻分野において飛躍的な進歩を遂げるきっかけとなりました。そして音楽も外せません。

なぜこのルネサンスと教会が関係しているのかというと、神を絶対視して人間を罪深いものとするローマ教皇の価値観が当然とされており、思想が支配されていた中世の時代。つまり教会の価値観によって様々な創作創造が統制され、暗黒の時代とも形容されるほど封鎖的閉鎖的な価値観の元に人々は苦しめられていました。

その暗黒から解放しようとした運動こそがルネサンスであり、神中心の束縛された世界観から人間性を解放しようと生まれた動きであり、それゆえに押し込められていた人としての感性感情が芸術として爆発し、華やいだのです。

このため、芸術の一環として音楽はルネサンス音楽として開花し、15世紀から16世紀のルネサンス期の音楽は教会音楽の枠組みを超えることとなりました。

ルネサンス期は「復興」を意味するものですが、ルネサンス音楽自体は古代音楽を復興したわけではなく、ルネサンスという解放された時代に対応した音楽です。教会から解放された新たな音楽が華やいだともいえますね。

とはいえ、ローマ・カトリック教会から完全に離れる形で音楽が作られたのではなく、ルネサンス期にも莫大な富と影響力があったため、この時代の音楽家は教会に雇われる形で音楽を作っていました。

つまり、ルネサンス期の音楽はやはりカトリック教会の典礼の音楽が中心ではありました。

しかし、作曲家たちだって新しさや意外性を欲していたので、ポリフォニーと呼ばれる複数の独立したパートからなる多声音楽をより複雑にしていきました。

教会からしてみれば、典礼のための音楽を求めていたので聞き取りにくくなる複雑なポリフォニーは求められておらず、変に手を加えたポリフォニーを禁じたくらいです。

このあたりからルネサンスという自由を感じる作曲家たちの反発が見て取れるというか、「俺たちも自由に音楽作りてえんだよ!」といった声が聞こえてきそうな気配が感じ取れます。

そんな流れがあってか、宮廷に雇われた音楽家たちは宮廷行事や貴族の娯楽のためにも音楽を作りました。これは世俗曲といって教会音楽とは区別されるものですが、教会に雇われていた音楽家はもしかしたら羨ましかったのかもしれませんね。

バロック時代に発展したクラシック

ルネサンス気は文化や芸術、思想の運動面において人間らしい自由さを取り戻すきっかけにはなりましたが、キリスト教の支配を完全に破壊しようとしていたわけではありません。

真に教会の支配から自由になっていたわけではないのは、教会音楽としてお抱えの音楽家が不満たらたらにポリフォニーを作ってたところからも垣間見えます。

そこで本格的にクラシックが発展するのは、バロック時代です。

ヨーロッパの17世紀から18世紀半ばまでの音楽のことをバロック音楽といいますが、バロックとは16世紀末から17世紀初頭にイタリアで誕生した美術文化の様式です。

ルネサンスの後に始まったこの運動は、まさにカトリック教会の対抗革命などが背景にあるため、芸術領域に大きな影響を与えました。

ちなみにバロックとはポルトガル語で歪んだ真珠や宝石を指す語です。教会の支配を否定して、それまでの常識を覆すことが歪みやねじれという語に表れているのかとも想像できます。

(まあ、それでもカトリック教会が宗教的な主題を広めるためにこれは使えると踏んで、バロック様式を促進したという背景もあるので、教会から完全に隔絶したということはないのですが。)

とにかくこのバロック時代にはある歌劇が誕生します。

オペラです。

最古のオペラとされているものは1607年にイタリアのマントヴァで初演された「オルフェオ」であり、この時期にはイタリア各地でオペラが上演されるようになります。

(世界で最初のオペラ上演とされているのは、1597年の音楽劇「ダフネ」と考えられています)

オペラ劇場は王侯貴族の社交の場として発展しましたが、相次いで建てられて裕福な市民も楽しむことができるようになりました。

この頃にはオペラや、ほかにもバレエが発展したことで複数の楽器を演奏されたのがオーケストラやコンサートの始まりです。

民衆にも広がっていくクラシック

なんだかんだでクラシックが上等なイメージがあるのは、初期には教会音楽として神に捧げる歌として誕生し、オペラで使用されるようになってからも王侯貴族やら金持ちをターゲットにした場でオーケストラによって演奏されていたわけですから、そりゃ高級感を抱いても当然といったところ。

1730年代からは古典派音楽という芸術音楽が生まれ、バロック音楽の次の音楽といえます。あのモーツァルトやベートーヴェンが活躍した時代ですね!

ちなみにベートーヴェンが1792年にウィーンに出ていた頃、フランス革命が勃発してヨーロッパの支配的な絶対主義体制が崩れていきました。

そして国民主義的な傾向へと向かっていた時代なので、音楽も一部の特権階級のためのものではなく、市民社会に広がっていきます。

この古典派時代には、オペラの伴奏だけではなく、楽器そのものの演奏をするステージが設けられました。

ベートーヴェンの音楽会に出席した人々も市民であり、クラシックは広く門戸を開くことになっていきます。

以降はピアノが一般家庭に普及することでクラシック音楽がより身近な存在になっていき、クラシックは親やすい音楽へとして人々の生活に浸透していきました。

クラシックをオーケストラで聴いてみよう

時代を経るにつれてオーケストラで演奏されるクラシックはより広く試聴されるようになっていきました。

そしてそのクラシックを演奏するオーケストラは現在でも様々な編成でコンサートホールで奏でられています。

あまり試聴したことがないからこそ、試しに生の演奏をコンサートホールで体感してみるのもいいでしょう。

多種多様な楽器の織りなす演奏試聴は唯一無二の体験です。だれもが楽しめるようになったオーケストラをぜひその目と耳で贅沢に味わってください。

クラシックコンサートといってもガチガチに身構える必要はありません。

たしかに発端やら発展を見ていると緊張するような分野であるというのも分かりますが、公演日のチケットを買って観にいくだけで楽しめるのです。

映画館に行くような流れと同じなのですから、なんとなく知っている曲や、なんとなく知っている作曲家の演奏をとりあえず聴いてみようというノリでぜんぜんいいです。

もしくはまったくなにもしらない演奏会でもなんだって構いやしません。なんだったら音楽大学の学生による演奏会であれば無料で開催されるものもあるくらいなので、興味があればまずコンサート会場に突入してみてください。

新しい感動は新しい好奇心を生み出し、新しい価値観を生み出します。

つまり、より人生が充実して豊かになるってことです!

どんな体験もしてこそ彩られていくのが日常であり感動は積み重ねられていきます。

これを機会にオーケストラを堪能してみるのはいかがでしょうか?