やたらと変化を続けるヒップホップカルチャーの中で、近年時期ごとに新しいジャンルのヒップホップのサブジャンルは生まれています。
そんなヒップホップ界隈から、今回はエモラップについて紹介していきたいと思います。
現在でも世界を席巻しているドリルというヒップホップジャンルに、Lo-fiという悲しみやらリラックス感をプラスした新ジャンルも生まれる中、エモという要素も音楽においてスルーできない要素です。
エモとはなにか、エモ要素をプラスしたヒップホップは何かについて触れていければ。というわけでいってみましょう!
エモ・ラップとは?
エモ・ラップとはそっくりそのままエモとヒップホップが組み合わさったジャンルで、エモ・ヒップホップとも呼ばれます。
このエモとは、元々ロックミュージックのサブジャンルであり、元は1980年代のワシントンで起こったハードコア・パンクを源流にしておりエモーショナル・ハードコアとも呼ばれます。
ハードコア・パンクがルーツだから激しくてけたたましいかと思いきや、このエモはそもそも心情を吐露するような歌詞やメロディアスで感情的な雰囲気を醸し出しているため、攻撃的なサウンドではなくむしろネガティブでマイナスのエネルギーに満ちた音楽といえます。
エモとは
そのためこのエモは、人によってもどれがエモな楽曲なのか定義が分かれるところ。音楽を試聴する姿勢として別にジャンル分けなんてわざわざせずに直感で「これがエモだ!」と思ったらエモだと思って聴けばいいと思いますが、エモを知りたい人にとってどれがエモなのかちんぷんかんぷんだと初めて触れる場合に困惑もされそうです。
てことで90年代やら2000年のオルタナティブロックの中でエモバンドと呼ばれるものをいくつか。
Jawbreaker
Sunny Day Real Estate
Jimmy Eat World
My Chemical Romance
なんとなく気だるいというか鬱っぽいというか、怠そうな雰囲気をまとっているのが特徴と言えるかもしれません。
このように厭世的な心情をかったるそーに吐き出しているロックのサブジャンル、エモから影響を受けてヒップホップに流し込んだらエモ・ラップになりましたというのが大きな括り。
エモ・ラップはネガティブエネルギーに満ちた若者の音楽?
なので歌詞は個人的な不満やら不安やらを歌っていることが多く、鬱衝動や孤独、不安、傷心、さらには薬物に溺れる様や挙句に自ら命を絶つことまで歌うと、お世辞にも上品とは言えないような音楽です。
このエモ・ラップは2000年代に生まれた比較的新しいジャンルであり、ミュージシャンは揃いも揃って10代やらの若者が多く、リスナーもティーンエイジャーに支持されているという特徴があります。
先ほども述べたように、エモ・ラップは未来への不安であったり自身の鬱屈した思いを吐露していることが多く、これは10代の自身に対する不安を抱えた若者が歌い手となり、そしてその不安を抱えているリスナーが10代のキッズにぶっ刺さってるというのがこのジャンルを説明するにあたって重要かもしれません。
どこか不安とネガティブな危うさを秘めた若者たちの音楽といえば、エモ・ラップの大枠が掴めるといったところ。
なのでリスナーにもそういう人種が少なくないのではと勘ぐってしまいますが、エモ・ラップの普及に貢献した人気ミュージシャンは揃いも揃って自分であの世に逝ってるかだれかに殺されています。
(まあエモ・ラップに限らず、ヒップホップのミュージシャンと死は非常に密接ですが。元々ギャング文化なので殺し合いが自然発生するのがヒップホップの音楽性ともいえるあたり改めてヤバいですね)
エモ・ラップのスタート
80年代に生まれたロックのサブジャンルを源流に持ち、当のエモ自体は90年代や2000年代に流通したので、エモロック自体は2000年頃にそれらしいラップが先駆者によって形作られていきました。
たとえば世界的なヒップホップアーティストでいえば、エミネムはこのエモ要素をふんだんに取り入れて菓子をつくっていました。
そしてカニエ・ウェストはエモ・ラップがガンガン流行る前からいち早くそれしい楽曲をつくっていました。(アンテナの張り方がビンビンだからこそ今日も最前線でバッキバキにオーラ放ってるんでしょうね)
事実、カニエ・ウェストの原型の一つだと指摘する音楽評論家もいるほど。
とはいえ、2000年代にエモ・ラップのルーツがあるとは考えられる反面、まだエモ・ラップやらエモ・ヒップホップといえるジャンル定義はなく、なんかエモいヒップホップがあるくらいの捉え方でした。
エモ・ラップの一時代
2000年代に源流があるエモ・ラップ。その形が明確になり、一時代を築いたのが2010年代です。この時代には新たな若手ミュージシャンによる最新のヒップホップが若者を虜にして一大ムーブメントとなります。
その発端となるのがサウンドクラウド出身のXXXTENTACION(テンタシオン)です。サウンドクラウド出身というのが新時代感ありますが、彼が生み出す音楽時代も新しすぎて衝撃を与えました。
サウンドクラウドはドイツのベルリンに拠点を置くSoundCloudLimitedが運営する音楽ファイル共有サービスであり、2007年に設立されました。
このサービスの趣旨はミュージシャン同士が音声ファイルを共有することが主な目的でしたが、そこからミュージシャン自身が音声ファイルを簡単に発信できるサービスへと変わっていきました。
つまりだれもが音楽を気軽につくり、つくった音楽を世の中に発信できるようになったのです。言い換えればプロのミュージシャンではなく素人でも世間に刺さる音楽つくればそれでバズってはい人気ミュージシャンの完成!というまさにネット発信で有名人になる構図ができあがりました。
そんなSoundCloud発信の若者が一斉を風靡した1人がXXXTENTACIONです。そんな新時代の成り上がり方をした彼のサウンド自体も非常に新しく、新しすぎて「こんなもん音楽じゃない」と批判を喰らうほどでした。
というのも音割れしまくったサウンドに問題まみれの歌詞で話題をかっさらったからですが、新時代の感情を持つ彼の音楽は新しい感性を持った若者たちに刺さり倒してキッズのスーパースターとして君臨しました。
こんなのヒップホップじゃないと猛批判の新音楽
オールドスクールの伝統的なヒップホップを好むリスアーからは袋叩きに合うような「なんだこの未完成な曲は!?」という批判やらそっちのけでカルト的に人気を博していったあたり、これが新しいものの生まれる瞬間なのだと改めて感慨深いです。
というのも新しくてそれまでの形に囚われないものは、音楽しかり芸術しかり固定の形に囚われた人々からは認められず受け入れられないのが定番です。
というかいままでの形に囚われていないから、いままでの形に囚われたものを好む人から批判を喰らうことこそが新しい証拠でもあるので、オールドを好む人から無茶苦茶にいわれて、オールドな作品では刺激を得られないいまの生身の若者にピンとくるものこそが斬新さの証明でしょうから、XXXTENTACIONは新しいものを築き上げたということに違いはなかったのでしょう。
無論新しければいいのかという議論もあるでしょうし、完成されたそれまでのジャンルの美しさや歴史を否定するつもりはありません。築き上げられてきたからこそ積み重ねられた深みやら含蓄があるゆえ、そういったものが一切ない新時代の新たな作品は軽すぎたり雑すぎたりすることもあるでしょう。
XXXTENTACIONがつくったエモ・ラップはまさにそういった様相で、中身を重要視する人々からは「なんだこれは」としか思えないような中身の無さだったでしょう。
しかし中身を重視せず、感性を重視するその当時のリアルな若者世代に直感的に刺さったという点では、当時の若者であり時代の最先端であった一個人の XXXTENTACIONだからこそ生み出せた新たな音楽だったといえると思います。
音楽的なキャリアもなく感性全開でつくっているゆえに、音楽的な積み重ねのない楽曲といえるのかどうなのかアレなサウンドは素人臭さも拭えなかったでしょうが、メインストリームに良くも悪くも影響され過ぎていない完成されていない音楽がエモ・ラップという新たなジャンルを築き上げていくには必要だったと思います。
(実際にXXXTENTACIONが楽曲をリリースしてすぐに世界的アーティストのDrakeがモロパクリ疑惑になるくらいの楽曲を世に放って物議をかもしたくらいですし、影響力が計り知れません。ちなみにDrakeはカナダ出身のラッパーで、2020年までにビルボードホットで7回1位を獲得して、マライア・キャリーと同じ初週1位記録を記録を持っていて男性歌手歴代最多の記録を保持し、過去にはジェイファー・ロペスとも交際していたような人物です。)
勢いづくエモ・ラップ
そしてこんなぶっ飛んだ有名人っぷりを見事に果たしたXXXTENTACIONのようにドリーム掴んでやるぜと言わんばかりに、サウンドクラウドからは同じような音楽性を持った若者を持って虹みたいな髪色した若者や顔面にタトゥー掘り込んだオシャレボーイがたくさん出てきました。
ちなみにXXXTENTACIONを含めたフロリダのアンダーグラウンド出身のラッパーたちは自身の若者最先端としての感性ももちろん活かしていたでしょうが、音割れした独特な不快ともいえる音楽のルーツはフロリダのアンダーグラウンドのヒップホップグループ「Raider Klan」に所属していたDenzel Curryという人物の功績が大きいです。
Denzel Curryらその他のメンバーたちは、XXXTENTACIONのバズり倒してDrakeにもパクられ倒した疑惑になったLook at me!のリリースする2年前に、音割れしまくった独特の楽曲をサウンドクラウド上にアップしています。
そして彼らの楽曲をプロデュースしたRonny Jという人物がXXXTENTACIONやほかのフロリダのラッパーの楽曲制作に携わることで、フロリダ仕込みのヒップホップが世の中でウケまくっていったという流れがあります。
いずれにしろ、学校では運動もできずに問題沙汰を起こしては馴染めずに暗い高校生活を送っていたパッとしない一介の少年オンフロイ、つまりXXXTENTACIONは時の人となり、ほかのラッパーとともにエモ・ラップを普及する重要人物となっていったのです。
エモ・ラップに多大な影響を与えたワシントン発のグランジバンド
エモ・ラップに大きな影響を与えたのは先駆者のヒップホップアーティストだけではありません。
元々エモ・ラップはエモなバンド音楽にルーツがあると先述しましたが、エモは80年代のワシントンにルーツがある音楽。そしてワシントン発の厭世的な音楽を歌ったバンドといえば、外せない存在があります。
ニルヴァーナです。ニルヴァーナはロック派生の荒々しくダークでメインストリームとは異なるアンダーグラウンドなグランジというサブジャンルを流行らせ倒しまくった偉大なバンドで、XXXTENTACIONもニルヴァーナ、特にギターボーカルのカート・コバーンのファンでした。
自身が味わっていた苦痛(おそらく学生時代の人間関係やらパッとしない自身について)を代弁してくれるようなカート・コバーンの歌詞は心に刺さり、ニルヴァーナのグランジ的なサウンドを彼なりのラップに表現したのがエモ・ラップといえるでしょう。
実際ニルヴァーナも当時の若者の社会に対する不安や自身の不安を代弁して社会現象ばりに大ヒットを飛ばしたので、XXXTENTACIONがエモ・ラップで当時の若者の心をかっさらっていったところにも共通点があります。
最悪な共通点といえば、カート・コバーンが自身の頭に自身でショットガンをぶっ放して若くしてこの世を去った点と、自らではないものの強盗に命を奪われてなんと若干20歳でこの世を去ったXXXTENTACIONというのも音楽性を体現しているようでなんともいえないですが。
エモラップの名曲
そんなこんなでXXXTENTACIONのみならず短命でこの世を去りまくっている有名ミュージシャンが多いエモラップ界隈ですが、楽曲自体は心に訴えかけるものがあり魅力にあふれています。
そんな憂鬱さに満たされまくった彼らの楽曲を紹介していきましょう。当たり前ですが全員が全員あの世に逝ってるわけではないのですよ!
XXXTENTACION
Juice WRLD
Lil Uzi Vert
Lil Peep
iann dior